日本で一番自殺率の低い町

2024/12/22

生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある」を読んだ。著者が日本の市区町村で自殺率の低いところを探していると、徳島県のある町(海部町)が目に留まる。近隣の町を見てみると特段自殺率が低いわけではない。病気など不安の種自体は等しくある。では、何が自殺率を減らす要因となっているのか?著者は実際に町で暮らし、住民と関わる中でその因子を発見していく。最近読んだ本の中でも抜群に面白く、一気に読み終えた。

町の人と話したり特徴を調べたりするなかで、著者は5つの因子を見つける。例えば「赤い羽根募金が集まらない」。海部町では近隣よりも募金が集まらない傾向があるらしい。自殺が少ないと聞くとなんとなくハッピーなイメージを持ち、募金はよく集まるものかと想像するが実際は逆。「この募金が何に使われるかよくわからない」と参加しない。逆に町の祭りなどにはお金は出す。他の人がやってるからではなく、判断の拠り所が自分にある。

うつ病の受診率が高いというデータも見つかる。他の町では「うつ」が周りにバレないようにと考えるが、海部町では誰々がうつになったらしい、じゃあお見舞いにいかないと、とオープンにやり取りされる。これを嫌に思う人もいるかもしれないが早い段階で明るみに出されるのは良い面も多い。うつ病を認めにくいのは周りの目など社会的な環境が大きい。周りから特別視されず、治療後は普通に同じように働ける環境であれば受診を妨げるものはない。

海部町には「病、外に出せ」というスローガンがある。困ったことがあったら早い段階で公にする。そうすると対処方法や良い医者など、助けとなるための情報が集まる。明らかに良いサイクルだが、これを実現するのは中々難しい。外に出しても周りから嫌な目で見られない、外に出すと助けが得られるという成功体験を得る、外に出すのが良いことだというコミュニティの雰囲気があるなど、条件が揃って初めて成立する。海部町では歴史的な経緯によるところもありこれが成り立っている。

ここまでの内容だとコミュニティの助け合い精神が高い印象を受けるが、アンケートではそういう結果にはならない。むしろ近隣の町の方が直接的な助け合いには重きを置いている。海部町はどうかというと、困ったことがあれば助け合うが普段はそこまでコミュニケーションは取らない。でも挨拶はよくする。縁側や公共施設など、"街のサロン"となれる場所がたくさんある。そこでできる「ゆるいつながり」がこれらの文化を支えている。

会社のオフィスでも優れたコラボレーションは自販機やウォーターサーバーでの会話から生まれるという話を聞いたことがある。無理に各職種を集めて会議をしてもアイデアは出ない。偶然顔を合わせる場所を作る設計が重要で、そこで挨拶をして育まれた関係性が別のところで花開く。大企業ではスポーツや趣味などの同好会が作られ、部署を超えたゆるいつながりに一役買っている。エンジニアの勉強会では社外の関係性が作られる。こうしたゆるい繋がりは大切にしたい。

いま働いている会社は「オープンでいよう」というバリューを掲げており、実際そのような文化が実現されている。困ったことがあってチャットに書き込むとすぐに誰かからヘルプが来る。それを周りの人は見ているので、助けてもらえそうな雰囲気を感じ取って次に自分が困ったときは書き込みやすくなる。文化は日常の小さな積み重ね。言語化して方向性を定め、行動で示すことで組織に伝播していく。

多様な価値観を尊重しようとすると、相手のプライベートゾーンに踏み込まずに手前で線を引いて仕事の話だけに割り切った方が簡単かと思う時がある。でも本当に働きやすい空間ではお互いに関心を持つ。配慮は必要だが、相手を知りたいと思う気持ちにフタはしなくて良い。