Feedback Loop
キャリアは轍
「キャリア」と聞くと今後どうなっていきたいか、どんな役割を目指したいかを連想するが、キャリアの語源は轍。前方ではなく車が走った後にできる。自分がこれまでやってきたこと自体がキャリアである。
目標を立てることが尊ばれている。何歳までに何を実現したいか、明確な人ほど良いとされている。10年後の状態から逆算して現在の行動を決める。そうできたら良いだろうが、なかなか今時点で10年後を決めるのは難しい。自分は「便利なものを作りたい」というなんとなくの方向性があるくらいで、具体的なイメージはそこまでない。何かを消費するよりも作っている時の方が脳汁が出て楽しい。その状態をできるだけ長くしたい、くらいに思っている。
『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』という本がある。起業してうまくいった人にアンケートを取り、共通する部分を抜き出して深掘りした本だが、その中に偶発性を味方につけるという章がある。目標までの道が明確な場合、偶然起きる出来事はノイズになる。目標を抽象化して持っているとき、偶然の出来事は「この状況をどう活かせるか?」の追い風にできる。どんなトレンドになり、どんな人と今後出会えるかはわからない。すべてを逆算して計算するのではなく、その時々の偶然を楽しみながら取り入れる。良し悪しはわからないがこの発想の方がなんとなくスキである。
ある地点を目指そうとするとき、自分がいま持っている状態を考慮せずに決めてしまうことが多い。自分にできること、自分が身を置く環境はどんなものか。そこからステップを刻んで目標地点まで進めていく。一足飛びに目的地に辿り着こうとすると、自分に足りないところばかり見えて息苦しい。目的地の方向性は見つつも、途中の寄り道も楽しめるような余裕は持っていたい。
とはいえ、ソフトバンクの孫さんやサイバーエージェントの藤田さんなどの偉大な起業家は目指す先を早い段階から定めている。それを宣言することで周りを巻き込んだりもしている。世の中を動かすために大きな志を持つことは間違いなく良いことなので、自分のやりたいことがそこにないということかもしれない。顔の見えない100万人に使ってもらうより、よく知る周りの人たちの課題解決に取り組んでいる時の方が楽しい。作りたいのは立派な会社ではなく、使いやすく便利なサービスである。