長所も短所もなく特徴がある
新卒の採用面接を受けていたとき、自分の考える長所や短所はどこか?とよく聞かれた。何かで読んだテクニック通りに長所は良い部分、短所は逆転すれば長所にもなりうるようなことを言っていた(人と話すのが好きなので一人で黙々と作業するのは苦手ですね、とか)。なんとなくこの問答には意味がないような気がしていた。そこから話が膨らんだことないし。今、自分が面接をする立場になってみて同じような質問をする時があるが、やはりこの質問では盛り上がらない。なぜか?
短所が反転させて長所にできるように、長所も反転させて短所になる。人が生まれ持って備わった長所や短所というのは存在しなくて、あるのはその人の特徴だけ。その特徴が環境によって長所になったり短所になったりする。これはUSJをV字回復させたことでお馴染みのマーケター、森岡毅さんの著書「苦しかったときの話をしようか」で言語化されたものだと記憶している。森岡さんの本はどれも面白くマーケティングの本質を勉強できるものだが、この本はちょっと毛色が違う。森岡さんには子供がおり、その我が子に宛てて就活、昇進、転職、起業などに関する文書をプライベートとして書き溜めていた。それを編集者が見つけて感銘を受け、一般読者向けにも出版される運びになったらしい。そんなわけで本質を見抜く森岡さんの仕事観が世にでることとなった。
就活で仕事場を探すとき、やってはいけないのは「自分の特徴が弱みになる」場所で働くこと。例えば同じ場所でじっとしてるのが苦手な人が、1日8時間座りっぱなしのデスクワークをする。あるいは好奇心旺盛で新しいもの好きな人が、既存の伝統や慣習を何より重んじる場所で働く。これを避けるために、まずは自分の特徴を探そう、というのが著者の主張だ。
特徴はどう探せばよいか?私なりに噛み砕かせていただくと、いろんなことを試して、他の人よりも簡単にできるものを探すこと。仕事をしていて憧れると、その人的には努力しているつもりはないけど周りからすごいと言われるシーンがある。競合調査の緻密なレポートを出したり、営業で1日に何百件も架電したり、わかりやすいドキュメントを書いたり。自分にとってはすごいことばかりだが、本人に聞いてみると凄ぶらず当たり前のことみたいな反応が返ってくる。長らくは謙遜の美学かと思っていたが、もしかしたら本人にとってはまったく苦ではないことなのかもしれない。こうやって他人に思われていることが何かを考えてみると、自分の特徴を見つける手掛かりとなる。
自身を振り返ってみると、まず趣味の個人開発はずっと続けている。社会に出てからはずっとやってるので13年くらい。しんどいと思ったことはないが、たまに褒めてもらえる。「どうやって時間を作ってるんですか?」みたいに聞かれることもある。個人開発は完全に趣味で、好きなものを作っている。作ること自体がストレス発散で、新しい技術を調べながら実装するのも楽しい。仕事と違って締め切りもないのでプライベートが忙しいときは緩めればいいし、暇なときは打ち込める。しかもうまくいけばお金になることもある。本当に良い趣味だと思っている。大学生の頃、一番好きなことは趣味に、二番目に好きなことを仕事にすると良いみたいな言説が出回っていたが、自分から見える景色では一番好きなことを仕事と趣味にすれば良いと思う。職種によって違うと思うので一概には言えないけど。周りの友人が映画を観たりサウナに行ったり、キャンプをしたりするのと同じ感じで自分はプログラミングをしていると思う。これは特徴のひとつ。
あとは、新しいことを知ったり腑に落ちたりするとアガるというのもある。Webサービスを作るにもいろいろな要素がある。ユーザーから見える部分を意味するフロントエンドに加え、システムやデータベースなどのバックエンド開発。さらにより良い体験を提供するためのデザイン、システムを安定的に利用してもらうための監視システム。ひとつひとつの深度も深く学習は大変だが、一つ一つ手を動かしながら学んでいくのは自分にとっては面白かった。
一通りのものが作れるようになると、次はそれを流行らす方法を知りたくなった。まったく同じ機能を持つアプリが複数あっても、あるアプリだけが脚光を浴びていたりする。その理由を知りたかった。それはいち早く動いた先行者メリットかもしれないし、早い段階でクチコミが広がる仕組みを作ったからかもしれないし、他よりも遥かに優れたデザインを持つからかもしれない。作るのは年々簡単になってきて、その分ライバルは増え、どうユーザーを獲得するかをセットで考える時代になっていると思う。
ユーザーに届ける方法が自分なりにわかると、次はそれをお金にする方法を知りたくなった。エンジニア初期の頃はお金目当てで何かをするのはクールではないと思っていたが、サービスを改善し続けるには収益もあげなくてはいけない。さらにお金があれば宣伝などもできて、良いサービスを世の中に知ってもらう選択肢が増える。使いやすくて感動したサービスがお金にならず運営終了していく様子を何度もみてきた。良いサービスはしっかり対価を受け取るべきだと思う。ユーザー価値とビジネス価値のバランスと自分は呼んでいるが、解決した課題の分だけ売り上げが増えるような料金設定が必要。いまはそんなことを勉強している。
話が逸れまくったが、要は自分の知らない未知のことを解明、言語化したいという特徴がある。そんな自分にとって同じ場所で数十年同じ仕事をするのは辛いだろう。好奇心や新しく湧き上がる興味を大事にしたい。そしてこの特徴は人によって違う。なので誰かにとっての天職が自分にとってはストレスフルな環境だったりする。万人にとっての最適解はないので、自分にとってはどういう環境が良いのか、主語を自分で考えるのが良い。