詳しくなくても趣味と言っていい

2024/12/18

映画を観るのが好きだというと「好きな監督はいる?」と聞かれる。読書が好きだというと「誰の作品が好き?」と聞かれる。贔屓の作家がいるわけではないのでこういう質問には答えづらい。そして答えられない経験をする度に、あまり知らないし趣味とは言えないのかな〜と思っていた。最近は詳しいかどうかはあまり関係なく、ただ観たり読んだりするのが好きなだけで良いのだと思えるようになってきた。

好きな作家を聞かれても特にいない。でも特にいないと答えると会話が終わってしまうのでみんな好きそうな名前を挙げて反応を窺う。処世術ではあるが、こんなことばかりしてたら自分を見失う。自分が本当に好きなことより相手からの見え方を重視する思考になってしまう。

その作品自体が面白かったかどうか、どのシーンが好きだったかは言えるが、その作り手が誰かまでは把握していない。「あの作品の監督だよ」と言われると確かに似てるなという気がしてくるが、あまりその人の世界観を知ることに興味がないのかもしれない。自分の趣味と合う作り手を知ってればお気に入りの作品に出会う確率があがって良さそうだ。ただ、これまでの経験では同じ作者でも作品ごとに好きなものもあれば微妙だったものもある。

最近は冒頭のような質問にも答えられるようになった。会話が続きやすいボールを投げるのが上達したのもあるが、大人になっていろんなコンテンツを観ていく中でお気に入りの作品が増え、その共通項が見えやすくなった。YouTubeやXなどで他者の感想に触れる機会も多く自分の感情の言語化もしやすい。作り手にスポットライトを当てるトレンドもある。好きな作家は?と聞かれて困っていたのは、自分の感覚を適切に表現する言葉を知らなかったからかもしれない。

何が好きかはたくさんのモノに触れて初めて分かる。子供の頃は変に抽象化する必要はなく、自分が好きなものを一つ一つ集めれば良い。それがたくさん集まるとなんとなく重なる部分が見えてくる。それは作者であったり雰囲気であったり作品のテーマであったりするが、人によってグッとくるポイントは違う。「好きな作家は?」ではなく「印象に残ってる本や映画は?」と聞かれるなら答えられる。世間的な評価も業界のトレンドも関係なく、自分に響けばそれは名作。そう思えるようになるまでかなり長い時間がかかった。