誰もが「新しい時代が来た」と言いたがる
IoT、ブロックチェーン、AI、DX。いつでも誰かが「新しい時代が来る」と言い、常に革新が起きるとされている。
「逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知」を読んだ。最近ハマってる楠さんの本で、その時々の流説に惑わされず本質を見極めるための指南書。「DXで時代は変わる」「AIについていけないと終わる」などの煽るような言説がどの時代にもあるが、それはそういうことで得するプレイヤーがいるから。例えばメディアは大げさに言って注意を引く必要がある。投資家は激動の時代にして変化率を高め自分たちの投資のリターンを大きく跳ねさせる必要がある。この本では過去にもてはやされた説を振り返りつつ、その正体を時代背景と合わせてひとつずつ紐解いていく。
何かのブームが起きるとき、必ず成功事例と共に流布される。セブンイレブンやヤマト運輸はITをうまく活用して他社と差をつけた。これを見てウチもITだ!としても中々上手くいかない。企業には文化や環境の土台があり、そこに馴染まないものを持ってきても花開かない。セブンイレブンやヤマト運輸は「IT化」のトレンドが来る前から情報をうまく使うことを戦略としていた。戦略が先、ITが後。どんなトレンドもそれ自体が本質になることはなく、企業が目指している目的に辿り着くための手段に過ぎない。
先に文脈があり後から名前がつけられる、というのでいつも思い出す例がある。前職のヤフーには1on1という文化があり、これは上司と部下が定期的に話をする場を設けるというもの。上司は教えるというよりは部下の話を聞くことにフォーカスし、本人の中にあるものを引き出すことで能力を発揮させる組織開発の手法のひとつだ。私が入社した時はまだ1on1という言葉はなかったが、それをすでに実践している先輩がいた。部下の話を聞くことが大事だと思っているからやる。それに後から1on1という名前がつけられる。ワードになることで体系化されたり人に伝えやすくなったりはするかもしれないが、その本質は変わらない。
本の話に戻ると、他にもいろいろと面白い内容が紹介されている。サブスクという言葉は2018年頃からのもので歴史が浅く、普及にはスマートフォンによる決済の簡易化の影響が大きい。現代は「人口減」が問題と言われているが、少し過去には「人口増」が問題とされていて様々な対策が打たれていた、など。最近は毎日「AIが世界を変える」と言われ続けてもうよくわからなくなっている。革新はある日突然起こるものではなく連続的に少しずつ変わる。情報に踊らされることなく、自分で考えたり試したりして地に足をつけて一歩ずつ進みたい。