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「会社という迷宮」を読んだ
「会社という迷宮」を読んだ。コンサルとして経験を積んできた著者が「会社」の本質に迫る一冊。いわゆる会社論とは違い、「コンサルではこう言ってるけど本当は〜」みたいな記述が多く、どれも芯を喰っていて唸らされる。私は数年前に転職し、それからはスタートアップの経営チームとしても仕事してきた。エンジニアという枠を超え会社の成長を考えていくなかで、市場調査であったり競合比較であったりは多少経験を積んだが、その過程でずっとあったモヤモヤをこの本は言語化してくれている。
例えば利益についての一文。
「利益」という場所から意識が出発すると、つまるところそれは「差」、言い換えると他者との相対的関係においてしか捉えられないものとなる。それを競争と呼ぶ。しかし、それはどこまで行っても、相対的なものであり続ける。問題になるのは、自ら定めた目標との距離ではなく、競争相手との相対的な距離である。もし、会社が自ら航海の行き先と定める独自の価値を持たないならば、航海の羅針盤は競争相手との相対的位置関係だけになる。
スタートアップ界隈には「T2D3」という言葉があり、TはTriple、DはDoubleを意味する。つまり今後の5年で、最初の2年はTriple(3倍成長)、次の3年はDouble(2倍成長)するという意味である。スタートアップにはこれぐらいの急成長が必要という指標みたいなもので、これを参考に計画を立てたりもした。しかしこれは「急成長します」以外の何も語っておらず、会社が何をするのか、どういう課題を解決していくのかには当然ながら何も触れていない。会社というのは成し遂げたいことがあったから立ち上げられたもののはずで、そのビジョン(上の文でいう独自の価値)をもっと大事にしなければならないはず。
さらにもうひとつ紹介。
可視化できないものまでなんでも可視化して説明しようとする習いが行きすぎれば、逆に対象を見える範囲に限定する視野狭窄となり、結果的にものごと自体を矮小化してしまう。
(中略)
何が正しい経営判断であるかは、論理や計算で客観的に決まるのではなく、第一義的には、視座をどこに据えるかで主観的に決まるものである。
KPI至上主義では目標を因数分解し、それぞれの数値を達成することで会社の成長を押し上げる。これは現在のビジネスではかなり一般的な考え方だと思うが、やってみるとデザインやブランディングなどの曖昧さを含むものはどの数字に効くかを考えづらい。数字で成果を測るには定量化が必要だが、「使い心地が良い」や「デザインが整っていてユーザーへの負担が少ない」といった内容は定量化がとても難しい(継続率や満足率に関連づけられることが多いが実際はもっと全体的に作用している)。大事なのはデザインの効果を数値化することではなく、良いデザインこそがコアだと信じること。数字で測れない曖昧さを認めながら、「私はこれを信じる会社にしたい」と決めて宣言することだと思う。
数字を信じる会社は、それも一つの正解。ただ、世の中で言われてるから数字で測った方が良さそう、みたいな態度ではKPIのジレンマに苦しむことになり、強いチームは作りづらい。多くの人数が所属する組織では、目標数字を掲げて各々に自走してもらうマネージメントがフィットすることも理解はしているので、感性や価値観を大事にしつつ数字を使っていくバランスが求められるのかなと思う。
最後にもうひとつ。
川岸まで近寄り、川を挟んで投資家と対話するはずが、無意識に自分も川を渡ってしまったのである。経営者の意識と目線に、株主や投資家が憑依してしまったということである。
(中略)
投資のリスクとリターンの観点でポートフォリオを考えるのは、投資家の仕事であって、経営者の仕事ではない。
将来を語るときに市場とかビジネスモデルとか競合優位性とかの話になってしまうが、本質は何を解決したいか。売れるから価値があるではなく、価値があると思うことに取り組む一人称的な取り組みが会社のコア。サラリーマンではあるが経営チームに身を置くものとして、この本に書かれていることは何度も思い返すことになりそうです。